facelib による顔検出、年齢・性別推定、表情認識 Colab プログラムによる実験・研究スキルの基礎
【概要】このページでは、画像から人物の顔を自動検出し、年齢・性別・表情を推定するプログラムの使い方と技術的背景を解説する。実験・研究の基礎スキルとして、実験計画から結果の考察まで具体的な手順を示す。
Colabのページ(ソースコードと説明): https://colab.research.google.com/drive/1uJt_EG16ADcxLiUuFa0zc4jBSRuba0mh?usp=sharing
【目次】
プログラム利用ガイド
1. このプログラムの利用シーン
このプログラムは、画像に写っている人物の顔を自動で検出し、その人の年齢、性別、感情を推定するためのツールである。写真に写っている人物の年齢層を把握したり、表情から感情を分析したりする際に利用できる。
2. 主な機能
- 顔検出機能:画像内の複数の顔を自動検出し、位置を特定する。
- 年齢推定機能:検出した各顔について年齢を推定する。
- 性別推定機能:検出した各顔について性別(男性または女性)を判定する。
- 感情認識機能:検出した各顔について表情から感情(中立、幸福、驚き、悲しみ、怒り、嫌悪、恐れ、軽蔑の8種類)を認識し、確率を含めて出力する。
- 結果の視覚化:検出した顔を緑色の枠で囲み、画像として表示する。
- サンプル画像での動作確認:プログラムに含まれる公式サンプル画像で、まず動作を確認できる。
3. 基本的な使い方
- プログラムの実行:
Google Colaboratoryでプログラムを開き、コードセルを実行。
- サンプル画像での確認:
プログラムは最初に公式サンプル画像(複数人が写った画像)を自動的に処理し、検出結果を表示する。顔の数、各顔の性別、年齢、感情、確率が画面に出力され、画像として可視化される。
- 自分の画像をアップロード:
「ファイルを選択」ボタンが表示されるので、解析したい画像ファイル(JPG、PNGなど)を1つ選択してアップロードする。
- 結果の確認:
アップロードした画像が自動的に処理され、検出された顔の情報が画面に表示される。同時に、顔を緑色の枠で囲んだ画像が表示される。
Colabのページ(ソースコードと説明): https://colab.research.google.com/drive/1uJt_EG16ADcxLiUuFa0zc4jBSRuba0mh?usp=sharing
4. 便利な機能
- 複数顔の同時解析:1枚の画像に複数の人物が写っている場合、すべての顔を同時に検出・解析する。各顔には「顔1」「顔2」のように番号が付けられる。
- 詳細な感情情報:各顔の表情について、最も可能性の高い感情だけでなく、その確率(パーセンテージ)も表示される。
- 日本語出力:すべての結果は日本語で表示され、性別も「男性」「女性」と日本語で出力される。
- 顔が検出されない場合の対応:画像に顔が検出されない場合、「顔が検出されませんでした」というメッセージが表示される。
プログラムコード
1. 概要
このプログラムは、画像から顔を検出し、各顔の年齢、性別、感情を自動推定する。公式サンプル画像での動作確認後、ユーザがアップロードした画像を解析し、検出結果を可視化する。
2. 主要技術
Multi-task Cascaded Convolutional Networks (MTCNN)
Zhang et al.が2016年に提案した顔検出・顔位置合わせ手法[1]。3段階のカスケード構造(P-Net、R-Net、O-Net)により、顔領域の提案、改良、最終検出および顔特徴点検出を行う。マルチタスク学習により検出と位置合わせを同時に実現する。
Soft Stagewise Regression Network (SSR-Net)
Yang et al.が2018年に開発した年齢推定手法[2]。粗密段階的な戦略により多段階分類を行い、各段階で少数のクラスを扱うことでモデルサイズを削減する。動的範囲割り当て機構により年齢のクラス化による量子化問題に対処し、0.32MBのモデルサイズで従来手法に匹敵する精度を実現した。
3. 技術的特徴
- 統合的顔解析パイプライン
顔検出、年齢性別推定、感情認識の3つのタスクを統合処理する。FaceLibライブラリを通じて事前学習済みモデルを活用する。
- 段階的処理構造
MTCNNによる顔検出・位置合わせ後、抽出された顔画像に対してSSR-Netベースの年齢性別推定とFER+データセットで学習済みのモデルによる感情認識を実行する。
- 適応的前処理
顔検出と感情認識では異なる入力サイズを使用する。顔検出では標準解像度、感情認識では224×224ピクセルとし、各タスクに適した処理を行う。
- 確率的推論
感情認識において、8種類の感情クラス(中立、幸福、驚き、悲しみ、怒り、嫌悪、恐れ、軽蔑)の確率分布を出力する。
4. 実装の特色
Google Colaboratory環境での実行を想定しており、以下の機能を備える。
- 公式サンプル画像による動作確認機能
- ファイルアップロード機能による任意画像の解析
- 検出結果の視覚化(緑色矩形による顔領域表示)
- 顔ごとの詳細情報出力(性別、年齢、表情、確率)
- 日本語による結果表示
- matplotlib・japanize-matplotlibによるグラフ表示
5. 参考文献
[1] Zhang, K., Zhang, Z., Li, Z., & Qiao, Y. (2016). Joint Face Detection and Alignment Using Multitask Cascaded Convolutional Networks. IEEE Signal Processing Letters, 23(10), 1499-1503. https://doi.org/10.1109/LSP.2016.2603342
[2] Yang, T. Y., Huang, Y. H., Lin, Y. Y., Hsiu, P. C., & Chuang, Y. Y. (2018). SSR-Net: A Compact Soft Stagewise Regression Network for Age Estimation. In Proceedings of the 27th International Joint Conference on Artificial Intelligence (pp. 1078-1084). https://doi.org/10.24963/ijcai.2018/150
[3] Barsoum, E., Zhang, C., Canton Ferrer, C., & Zhang, Z. (2016). Training Deep Networks for Facial Expression Recognition with Crowd-Sourced Label Distribution. In ACM International Conference on Multimodal Interaction (ICMI). https://arxiv.org/abs/1608.01041
実験・研究スキルの基礎:Google Colabで学ぶ顔分析実験
1. 実験・研究のスキル構成要素
実験や研究を行うには、以下の5つの構成要素を理解する必要がある。
1.1 実験用データ
このプログラムでは人物が写った画像ファイルが実験用データである。
1.2 実験計画
何を明らかにするために実験を行うのかを定める。
計画例
- 年齢推定の誤差を異なる年齢層で比較する
- 性別推定の正答率を異なる条件(髪型、服装など)で確認する
- 表情の認識精度を複数の感情で比較する
- 顔の向きや照明条件が検出精度に与える影響を調べる
- 複数人が写る画像で各顔の推定結果を比較する
- 同一人物の異なる表情での感情認識の変化を観察する
1.3 プログラム
実験を実施するためのツールである。このプログラムはFaceLibライブラリのMTCNN、SSR-Net、FER+学習済みモデルを使用している。
- プログラムの機能を理解して活用することが基本である
- 基本となるプログラムを出発点として、将来、様々な機能を自分で追加することができる
1.4 プログラムの機能
このプログラムは画像から顔を検出し、3つの属性を自動推定する。
入力データ
- 画像ファイル(JPG、PNGなど)
- 公式サンプル画像またはユーザがアップロードした画像
出力情報
- 検出された顔の総数
- 各顔の属性(性別、年齢、表情、確率)
- 顔を緑色の矩形で囲んだ可視化画像
- 各顔に付与された番号(顔1、顔2など)
処理の流れ
- プログラムを実行すると、まず公式サンプル画像が自動的に処理される
- 次に、ユーザが画像をアップロードすると、同様の処理が実行される
- 処理結果は画面に表示され、画像として可視化される
1.5 検証(結果の確認と考察)
プログラムの実行結果を観察し、推定精度や傾向を考察する。
基本認識
- 同じモデルでも画像によって推定精度は異なる。その違いを観察することが実験である
- 「正しい推定」「間違った推定」は、実際の属性と比較して判断する
- 確率値が高くても誤推定の可能性がある
観察のポイント
- 顔検出は正確か(見逃しや誤検出はないか)
- 年齢推定の誤差はどの程度か
- 性別推定は正確か
- 表情認識は妥当か(実際の表情と一致しているか)
- 確率値は推定結果の信頼性を表しているか
- 顔の向きや照明が結果に影響しているか
- 複数人の場合、顔ごとに精度が異なるか
2. 間違いの原因と対処方法
2.1 プログラムのミス(人為的エラー)
プログラムがエラーで停止する
- 原因:必要なライブラリがインストールされていない、または構文エラー
- 対処方法:エラーメッセージを確認し、FaceLibのインストールコマンドが実行されているか確認する
画像が表示されない
- 原因:画像ファイルの読み込みに失敗している、またはファイル形式が非対応
- 対処方法:JPGまたはPNG形式の画像を使用し、ファイルが正しくアップロードされたか確認する
モデルのダウンロードに時間がかかる
- 原因:初回実行時に事前学習済みモデルをダウンロードしている
- 対処方法:これは正常な動作である。ダウンロードが完了するまで待つ
2.2 期待と異なる結果が出る場合
顔が検出されない
- 原因:顔が小さすぎる、横を向いている、画質が低い、または照明が暗すぎる
- 対処方法:正面を向いた明るい画像を使用する。顔のサイズが画像全体の10%以上あることが望ましい
年齢推定の誤差が大きい
- 原因:化粧、髪型、表情、照明などが年齢の見た目に影響している
- 対処方法:これは機械学習モデルの限界である。複数の画像で試し、平均的な傾向を観察する。年齢推定は一般にxxx歳程度の誤差が生じる
性別推定が間違っている
- 原因:髪型、服装、顔立ちなどの特徴が性別判定に影響している
- 対処方法:異なる条件の画像で試し、どのような特徴が誤判定を引き起こすか観察する。これは実験の重要な発見である
表情認識が実際の感情と異なる
- 原因:微妙な表情は認識が難しい、または文化的な表情の違いがある
- 対処方法:確率値を確認する。確率が低い場合はモデルも判断に迷っている。明確な表情の画像で試す
複数の顔で精度が異なる
- 原因:顔のサイズ、向き、照明条件が顔ごとに異なる
- 対処方法:これは正常な動作である。どの条件で精度が高いか、低いかを記録し、考察する
3. 実験レポートのサンプル
年齢層による年齢推定精度の比較
実験目的
異なる年齢層の人物画像を用いて、年齢推定モデルの精度を比較し、どの年齢層で推定精度が高いかを明らかにする。
実験計画
10代、20代、30代、40代、50代以上の各年齢層から複数の画像を選び、推定年齢と実年齢の誤差を測定する。
実験方法
プログラムを実行し、各年齢層の画像を順次アップロードして以下を記録する。
- 実年齢:画像の人物の実際の年齢
- 推定年齢:プログラムが出力した年齢
- 誤差:実年齢と推定年齢の差の絶対値
- 性別推定:正しく推定されたか
実験結果
(以下は架空の値を用いた記載例である)
| 年齢層 | 実年齢 | 推定年齢 | 誤差 | 性別推定 | 表情 |
|---|---|---|---|---|---|
| 10代 | xxx | xxx | xxx | xxx | xxx |
| 20代 | xxx | xxx | xxx | xxx | xxx |
| 30代 | xxx | xxx | xxx | xxx | xxx |
| 40代 | xxx | xxx | xxx | xxx | xxx |
| 50代以上 | xxx | xxx | xxx | xxx | xxx |
考察
- (例文)若年層の推定では実年齢より高く推定される傾向が見られた。(例文)化粧や髪型が影響している可能性がある。
- (例文)中年層の推定精度が最も高く、誤差が小さかった。(例文)この年齢層での学習データが豊富であると推測される。
- (例文)高齢層では実年齢より低く推定される傾向があり、誤差が大きくなった。
- (例文)性別推定は全年齢層でほぼ正確であったが、髪型が長い男性で誤判定が発生した。
- (例文)表情が笑顔の画像では年齢が若く推定される傾向が観察された。
結論
(例文)本実験により、年齢推定モデルは中年層で最も高い精度を示し、若年層と高齢層では誤差が大きくなることが確認できた。(例文)また、表情や外見的特徴が推定に影響を与えることが明らかになった。(例文)年齢推定を実用する際は、年齢層による精度の違いを考慮する必要がある。