PixelLib インスタンスセグメンテーション Colab プログラム(インタラクティブなパラメータ調整機能付き)による実験・研究スキルの基礎

【概要】Google Colabで動作する物体検出AIプログラムである。PixelLibを用いて人、車、動物など80種類の物体を検出する。画像をアップロード後、スライダーで信頼度閾値を調整し、リアルタイムで検出結果を確認できる。誤検出と見逃しのトレードオフを理解するための教材として活用できる。

Colab のページ(ソースコードと説明): https://colab.research.google.com/drive/1Ri1v_O4A5vXRSSEBgt4umKC1l3SoWp9U?usp=sharing

プログラム実行画面の例

【目次】

  1. プログラム利用ガイド
  2. プログラムの説明
  3. 実験・研究スキルの基礎:Google Colabで学ぶインスタンスセグメンテーション実験

プログラム利用ガイド

1. このプログラムの利用シーン

画像内の物体を自動的に検出し、各物体をピクセル単位で区別するプログラムである。検出精度を調整しながら、画像内に何が写っているかを詳細に分析できる。物体認識、画像分析、データセット作成などの用途に利用される。

2. 主な機能

物体検出とセグメンテーション機能では、画像内の人、車、動物など80種類の物体を自動的に検出し、各物体の領域をピクセル単位で特定する。

信頼度閾値の調整機能では、スライダーを使用して信頼度閾値を0から100の範囲で調整でき、検出感度を変更できる。閾値を上げると検出数が減り、下げると検出数が増える。

視覚的な結果表示機能では、検出された各物体を異なる色で表示し、バウンディングボックスとラベルを付与する。元画像と結果を並べて表示することで、検出精度を確認できる。

検出情報の一覧表示機能では、検出された物体の総数と、各物体のクラス名および信頼度スコアをリスト形式で表示する。

3. 基本的な使い方

まず、Colab のページ(https://colab.research.google.com/drive/1Ri1v_O4A5vXRSSEBgt4umKC1l3SoWp9U?usp=sharing)を開く。

次に、セルを実行する。実行すると、必要なライブラリが自動的にインストールされ、検出用のモデルファイルがダウンロードされる。

画像のアップロードでは、ファイル選択ダイアログが表示されるので、分析したい画像ファイルを選択する。

セグメンテーションの実行では、画像がアップロードされると、自動的にセグメンテーション処理が実行される。

信頼度閾値の調整では、スライダーを動かして信頼度閾値を調整する。閾値を変更すると、検出結果が即座に更新される。

結果の確認では、元画像と検出結果を比較し、検出された物体のリストを確認する。

4. 便利な機能

リアルタイムプレビュー機能では、信頼度閾値を調整すると、検出結果が即座に更新されるため、最適な閾値を見つけやすい。

自動的なサイズ調整機能では、画像のサイズに応じて、表示要素(線の太さ、フォントサイズ)が自動的に調整されるため、さまざまなサイズの画像に対応できる。

環境の自動修正機能では、プログラムが自動的にライブラリの互換性問題を修正するため、ユーザーは複雑な設定を行う必要がない。

詳細な検出情報機能では、各物体のクラス名と信頼度スコアが表示されるため、検出精度を定量的に評価できる。

プログラムの説明

概要

このプログラムは、Google Colab環境で動作する画像インスタンスセグメンテーションシステムである。アップロードされた画像内の物体をピクセル単位で検出・分類し、信頼度閾値をインタラクティブに調整しながら結果を視覚化する。

主要技術

PointRend(Point-based Rendering)

コンピュータグラフィックスのレンダリング手法を画像セグメンテーションに応用したニューラルネットワークモジュールである[1]。反復的細分割アルゴリズムに基づき、適応的に選択された位置で点ベースのセグメンテーション予測を行う。従来手法で滑らかになりすぎていた物体境界において、鮮明な輪郭を出力する。インスタンスセグメンテーションとセマンティックセグメンテーションの両方に適用できる。

ResNet50

50層の深層残差ネットワークアーキテクチャである[2]。残差学習フレームワークを用いることで、従来は困難であった深層ネットワークの学習を可能にした。スキップ接続により勾配消失問題を緩和し、深いネットワークの最適化を容易にする。画像認識タスクにおいて広く使用されるバックボーンネットワークである。

技術的特徴

点ベース予測による境界精度向上では、PointRendは、通常の低解像度グリッドではなく、適応的に選択された点で予測を行うことで、物体の境界を精密に検出する。

マスクベースのピクセル単位セグメンテーションでは、各物体に対して個別のマスクを生成し、ピクセルレベルでの正確な物体領域の特定を行う。

信頼度スコアによるフィルタリングでは、各検出物体に対する信頼度スコアを計算し、ユーザーが設定した閾値に基づいて検出結果をフィルタリングする。

実装の特色

インタラクティブな閾値調整機能では、IPythonウィジェットのスライダーを使用し、信頼度閾値を0から100の範囲でリアルタイムに調整できる。閾値を変更すると即座に検出結果が更新され、視覚的な確認が可能である。

COCO学習済みモデルの使用では、COCO(Common Objects in Context)データセットで学習されたモデルを使用し、人、車、動物など80クラスの物体を検出できる[3]。

参考文献

[1] Kirillov, A., Wu, Y., He, K., & Girshick, R. (2020). PointRend: Image Segmentation as Rendering. In Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR) (pp. 9799-9808). https://arxiv.org/abs/1912.08193

[2] He, K., Zhang, X., Ren, S., & Sun, J. (2016). Deep Residual Learning for Image Recognition. In Proceedings of the IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR) (pp. 770-778). https://arxiv.org/abs/1512.03385

[3] PixelLib GitHub Repository. https://github.com/ayoolaolafenwa/PixelLib

実験・研究スキルの基礎:Google Colabで学ぶインスタンスセグメンテーション実験

1. 実験・研究のスキル構成要素

実験や研究を行うには、以下の5つの構成要素を理解する必要がある。

1.1 実験用データ

このプログラムでは画像ファイルが実験用データである。

1.2 実験計画

何を明らかにするために実験を行うのかを定める。

計画例として、信頼度閾値が検出数に与える影響を確認する、信頼度閾値と検出精度(正検出と誤検出)の関係を調べる、複数の物体が重なった画像でのセグメンテーション精度を評価する、物体の境界がどの程度正確に抽出されるかを確認する、特定のクラス(人、車、動物など)の検出性能を比較する、画像の複雑さ(背景の混雑度)が検出結果に与える影響を調べる、などがある。

1.3 プログラム

実験を実施するためのツールである。このプログラムはPixelLibライブラリとPointRendモデル(ResNet50バックボーン)、ipywidgetsのinteract関数を使用している。プログラムの機能を理解して活用することが基本である。基本となるプログラムを出発点として、将来、様々な機能を自分で追加することができる。

1.4 プログラムの機能

このプログラムは1つのパラメータでインスタンスセグメンテーションを制御する。

入力パラメータは、信頼度閾値(検出結果を表示する最低信頼度、0から100の整数値)である。

出力情報には、元画像(左側)と検出結果画像(右側)の並列表示、現在の信頼度閾値と検出数を含む画像タイトル、検出された物体の詳細リスト(クラス名と信頼度スコア)、各物体の領域を示すカラーマスク、各物体の位置を示すバウンディングボックスがある。

スライダーの動作では、スライダーを動かすと即座にフィルタリング処理が実行され、結果が更新される。セグメンテーション自体は最初に1回だけ実行され、スライダーは検出済みの結果から信頼度でフィルタリングする。

1.5 検証(結果の確認と考察)

プログラムの実行結果を観察し、パラメータの影響を考察する。

基本認識として、パラメータを変えると結果が変わる。その変化を観察することが実験である。良い結果、悪い結果は目的によって異なる。インスタンスセグメンテーションは物体検出よりも詳細な情報を提供する。

観察のポイントとして、検出数はどう変化するか、誤検出(存在しない物体の検出)は発生しているか、見逃し(本来検出すべき物体の未検出)は発生しているか、物体の境界(マスクの輪郭)は実際の物体の形状と一致しているか、重なった物体が正しく分離されているか、信頼度の値は妥当か、背景と物体の区別は適切か、などがある。

2. 間違いの原因と対処方法

2.1 プログラムのミス(人為的エラー)

プログラムがエラーで停止する場合、原因は構文エラー、必要なライブラリがインストールされていないことである。対処方法は、エラーメッセージを確認し、提供されたコードと比較することである。

モデルのダウンロードに時間がかかる場合、原因は初回実行時にPointRendモデル(約250MB)をダウンロードしていることである。対処方法は、これは正常な動作であるため、ダウンロードが完了するまで待つ(数分程度)ことである。

セグメンテーション処理に時間がかかる場合、原因はPointRendは高精度なため、処理に時間がかかる。特にCPU環境では遅い。対処方法は、Google ColabのランタイムタイプをGPUに変更する(ランタイム→ランタイムのタイプを変更→T4 GPU)ことである。

2.2 期待と異なる結果が出る場合

パラメータを変えても検出数が変化しない場合、原因は元々検出される物体が少ない画像、または全ての検出物体の信頼度が閾値以上であることである。対処方法は、信頼度閾値を10から90まで大きく変化させて観察する。初期検出数を確認する(conf=0での検出数)ことである。

明らかに存在する物体が検出されない場合、原因は信頼度閾値が高すぎる、または物体がCOCOデータセットの80クラスに含まれていない、あるいは物体が小さすぎる・不鮮明であることである。対処方法は、信頼度閾値を0程度まで下げて確認する。それでも検出されない場合は、その物体クラスが対応していない、または画像品質に問題がある可能性があることである。

物体の境界が不正確である場合、原因は物体と背景の境界が不明瞭、または物体が複雑な形状をしていることである。対処方法は、これはモデルの性能限界である。PointRendは境界精度が高いが完璧ではない。異なる画像で試して性能を比較することである。

誤検出が多すぎる場合、原因は信頼度閾値が低すぎる、または背景が複雑で物体に似た模様があることである。対処方法は、信頼度閾値を50以上に上げる。どの程度で誤検出が減るか記録することである。

重なった物体が分離されない場合、原因は物体の重なりが大きすぎる、または後ろの物体の見える部分が少なすぎることである。対処方法は、これはインスタンスセグメンテーションの限界である。信頼度閾値を下げて試す。完全に隠れた物体は検出できないことである。

カラーマスクが見づらい場合、原因はランダムに割り当てられた色が背景や物体の色と似ていることである。対処方法は、プログラムを再実行すると異なる色が割り当てられる。これは表示の問題であり、検出精度とは無関係であることである。

3. 実験レポートのサンプル

信頼度閾値がセグメンテーション結果に与える影響

実験目的は、テスト画像内の複数の物体を対象に、信頼度閾値が検出精度とマスク品質に与える影響を定量的に評価することである。

実験計画は、信頼度閾値を0から90まで変化させ、各設定での検出結果を記録する。特に正検出、誤検出、見逃し、境界精度に着目する。

実験方法は、プログラムを実行し、スライダーを操作しながら以下の基準で評価する。正検出数は正しく検出され、マスクが適切に抽出された物体の数である。誤検出数は存在しない物体や背景が物体として検出された数である。見逃し数は画像内に存在するが検出されなかった物体の数である。境界精度はマスクの輪郭が実際の物体形状とどの程度一致しているか(主観評価:良好/普通/不良)である。

実験結果:

信頼度閾値 検出総数 正検出数 誤検出数 見逃し数 境界精度 総合評価
0 x x x x x x
30 x x x x x x
50 x x x x x x
70 x x x x x x
90 x x x x x x

考察の例文は以下のとおりである。

(例文)信頼度閾値xxxでは検出総数が最大となったが、背景の模様や影を物体として誤検出する傾向が顕著であった。低信頼度の検出では境界も不明瞭なケースが多かった。

(例文)信頼度閾値xxxでは誤検出が大幅に減少し、主要な物体はほぼ全て検出された。マスクの境界精度も良好で、物体の輪郭を正確に抽出できていた。

(例文)信頼度閾値xxxでは誤検出はほぼ消失したが、画像の端に位置する物体や一部が隠れた物体の見逃しが増加した。検出された物体のマスク品質は高かった。

(例文)信頼度閾値xxx以上では、明確に写っている物体のみが検出された。見逃しが増加したが、検出された物体は全て正確であり、マスクの境界精度も最高レベルであった。

(例文)信頼度閾値を上げるほど誤検出は減るが、同時に見逃しも増えるというトレードオフの関係が明確に確認できた。また、低信頼度の検出ではマスクの境界精度も低下する傾向が観察された。

(例文)PointRendによるインスタンスセグメンテーションは、単純な矩形検出と比較して物体の形状を正確に抽出できており、重なった物体もある程度分離できることが確認できた。

結論の例文は以下のとおりである。

(例文)本実験の画像においては、信頼度閾値xxxが最もバランスの取れた設定であった。重要な物体を見逃さないことを優先する場合は閾値xxx、誤検出を完全に避けたい場合は閾値xxxが適切である。インスタンスセグメンテーションでは、信頼度閾値が検出数だけでなくマスクの境界精度にも影響を与えることが確認できた。用途に応じて閾値を調整する必要性が実験を通じて理解できた。