データベース用語集
1. データベースの基本概念
ファイル:固有のファイル名を持ち,デジタルデータを保存する基本的な単位である.主要な操作には,ファイルのオープン,クローズ,読み出し,書き込みなどの基本機能が含まれる.
データベース:複数のエンドユーザやアプリケーションプログラムによって共有され,継続的に活用されるデータの集合体である.実世界の特定の側面を体系的にデータとして表現し,通常はハードディスクなどの二次記憶装置に格納される.必要に応じてメインメモリにキャッシュされ,高速なアクセスを実現する.
例:大学の学生情報データベースでは,学生ID,氏名,所属学部,履修科目などの情報が複数のテーブルに体系的に格納され,学生課や各学部の教職員が共有して利用する.
データベースの正しさ:データベースは実世界の状態を正確に表現することが不可欠である.構造設計は現実世界の多様性に対応できる柔軟性を持ち,データには誤りがないこと(一貫性)が求められる.柔軟性の欠如や誤記録,重複登録などはシステムの信頼性と運用効率を著しく低下させる.
問い合わせ(query):データベースから必要な情報を効率的に抽出するために実行されるプログラム命令である.リレーショナルデータベースに格納された1つまたは複数のテーブルを操作し,評価結果として通常は新しいテーブルを生成する.基本構文はSELECT,FROM,WHEREを使用し,「SELECT * FROM E WHERE student_name = 'KK';」のように特定の条件を満たすデータを取得する.SQLクエリをデータベース管理システムに送信することを「問い合わせの発行」と呼ぶ.
2. データモデルとデータベース設計
データモデル:実世界の情報をデータベースとして体系的に記述するための標準的フレームワークである.データベースのデータ構造を定義する規約,データに対する操作体系の定義,データの一貫性を保証するための規約体系から構成される.
データモデリング:概念モデルと論理モデルを体系的に設計するプロセスである.実世界のデータベース化は,通常,概念モデルから論理モデルへと段階的に進められる. 注意点:実世界の要求を正確に反映させるため,ユーザーや関係者との十分な要件分析が前提となる.
概念モデル:データベース化対象の実世界について,データ構造と一貫性制約を抽象的に記述したモデルである.特定の論理モデルやデータベース管理システムに依存しない,汎用的な設計手法である.
論理モデル:リレーショナル,ネットワーク,階層型,オブジェクト指向などの種類があり,データベース管理システムの特性に応じて選択される.概念モデルが確立されていれば,その構造を論理モデルへと体系的に変換できる.
実体関連モデル:概念モデルを記述するための標準的な方法論である.実世界を実体型と関連型で表現し,それぞれに属性を付与する.さらに,主キーによる一貫性制約などの重要な規則を定義する.
例:大学のデータベース設計では,「学生」「教員」「科目」などが実体型となり,「履修」が学生と科目を結ぶ関連型となる.学生には学籍番号や氏名という属性があり,学籍番号が主キーとなる.
実体:実世界において独立して認識可能な具体的な対象である.
実体関連図:実体関連モデルによる概念モデルを視覚的に表現する標準的な図式表現である.実体型は四角形,関連型は菱形,属性は楕円で表され,主キーには下線が付される.弱実体型は二重枠の四角形で示される.実体型と関連型を結ぶ線分上には,1,N,Mの記号で関係の多重度を明示する.
3. リレーショナルデータベースの理論
3.1 基本概念
リレーショナルデータベース:データを表(テーブル)形式で管理するデータベースシステムであり,各テーブルは行(レコード,タプル)と列(属性)から構成される.複数のテーブル間の関係(リレーション)を効率的に扱い,テーブル間の結合や分解が可能である.SQLを用いた複雑なデータ操作や検索を行うことができ,データフォーマット,データ操作体系,データ型の定義方法,一貫性制約の規定方法が明確に標準化されている.テーブル定義,一貫性制約,トランザクション,実行計画,二次索引などの概念が基礎となり,MySQL,PostgreSQL,SQLite3などが代表的な実装例である.
例:学生情報を管理するデータベースでは,「students」テーブル(学籍番号,氏名,生年月日)と「classes」テーブル(科目コード,科目名,単位数),そして「enrollment」テーブル(学籍番号,科目コード,成績)という関連する複数のテーブルでデータを管理する.
リレーショナルデータモデル:データベースをテーブルの集合として記述し,データ操作の体系をリレーショナル代数演算やリレーショナル論理(タプルリレーショナル論理)に基づいて行うデータモデルである.主キー制約,一意制約,非空制約,ドメイン制約,参照整合性制約などの一貫性制約が存在し,現代の多くのデータベースシステムの基盤となっている.
リレーショナルデータベース管理システム:リレーショナルデータモデルの機能を実装したデータベース管理システムのことである.MySQL,PostgreSQL,SQLite3などが該当し,データの格納,検索,更新,管理を効率的に行うための機能を提供する.一貫性制約を記述できる機能や,制約に違反する更新を拒否する機能なども実装されている.
3.2 データ構造
ドメイン:属性が取りうる値の集合のことである.a set of permitted valueとも呼ばれる.例えば,属性「年齢」のドメインは,整数値の集合 {0, 1, 2, …, 120} のように定義される.データベースの各列に対して適切なドメインを設定することで,データの整合性を確保する基盤となる.
単純値:分解不可能な値のことを指す.シンプルとも呼ばれる.一般的に数値,文字,文字列,時刻,日付,論理値などの値を意味する.「みかん」は単純値だが,{みかん, りんご}のような集合は単純値ではない.属性名「family name」と「given name」の直積集合やドメイン要素のべき集合など,構造化された値や直積集合の要素は一般的に単純値とはみなされない.
直積集合:n個の集合S1, S2, …, Snが与えられたとき,各集合から1つずつ要素を取り出して作る組をすべて集めた集合である.直積集合とも呼ばれ,S1 × S2 × … × Snと記す.例えば,S1 = {1, 2}, S2 = {a, b, c}のとき,S1 × S2 = {(1, a), (1, b), (1, c), (2, a), (2, b), (2, c)}となる.順序が重要で,S2 × S1は異なる集合となる点に注意が必要である.
リレーション:ドメインD1, D2, …, Dnの直積集合「D1×D2×…×Dn」の任意の有限部分集合のことである.関係とも呼ばれる.具体例として,id,年月日,顧客名,商品ID,単価,数量などの複数の属性とそれぞれのドメインで構成される情報の集合がリレーションとなる.リレーショナルデータベースの基本的な構成要素である.
タプル:直積集合の各要素,またはリレーションの各要素のことである.データベースのテーブルでは,一つの行(レコード)がタプルに相当する.順序付けされた値の組み合わせとして,リレーションの構成要素となる.
例:学生テーブルの1行「(1001, '山田太郎', '工学部', '2002-05-15')」が1つのタプルである.
多重集合(multi-set):要素の重複を許すような集合のことである.リレーショナルデータベースでは,例えば得点データ {85, 75, 90, 85, 75} などを正確に集計するために導入されている.単なる集合だと {85, 75, 90} となり正確な平均点83点が計算できないが,多重集合では重複を考慮して正確な計算が可能になる.
テーブル(table):リレーショナルデータベースの基本的な構成要素で,行(レコード)と列(属性)から構成される二次元の表形式のデータ構造である.多重集合(multi-set)を基礎とする体系であり,同じ値を持った行が複数回現れることが許される特徴がある.ヘッダ(属性名が配置される部分)と本体(属性のドメインの直積集合の要素からなる多重集合(multi-set))から構成され,本体にはリレーションのほか,重複値を持つ多重集合(multi-set)も格納可能である.物理的には,各行がテーブルに格納されている1つのエンティティを表し,例えばscoresテーブルはname,teacher_name,student_name,score等の列を持つ.
属性(attribute):リレーショナルデータベースのテーブルでは,各列が1つの属性を構成する.テーブル内の列を表す要素で,特定のデータ型を持ち,テーブル定義時にname text not nullのように名前とデータ型を指定する.属性名は各列に付けられた名前であり,テーブルのヘッダに記述される.例えば,id,年,月,日,顧客名,商品ID,単価,数量などが属性名となる.point3テーブルのx,y,z属性は実数型の座標値を格納する例である.テーブルのタプルが更新されても,属性名は不変である.
第一正規形:ドメインとして,分解不可能な単純値のみを対象とすることである.リレーショナルデータベースの基本的な設計指針の一つで,データを単純な形式に保つことでデータの操作と管理を容易にする.第一正規形を満たすことで,データの冗長性を減らし,整合性を高める効果がある.
3.3 スキーマとキー
リレーション/テーブルスキーマ:テーブル名とその属性(列)名の集合で構成され,テーブルの構造や枠組みを定義するもの.Rをリレーション名,A1, A2, …, Anを属性名とするとき,「R(A1, A2, …, An)」のように表記され,例えば「point3(id, x, y, z, created_at)」や「scores(id, name, teacher_name, student_name, score)」のように表記される.各属性にはドメイン(値の取り得る範囲)が定義され,テーブルの構造が規定される.テーブルのタプルが挿入・削除・変更されてもリレーションスキーマ自体は不変である.
データベーススキーマ:データベース全体の構造を定義する情報であり,テーブル定義,制約,インデックスなどの情報が含まれる.SQLite 3では sqlite_master テーブルに格納され,rootpageなどの情報も含まれる.
キー(key):テーブルのタプルを唯一に識別するために使用できる属性,あるいは属性の組のうち,極小なものである(極小とは,その一部分だけではキーの役割を果たせないという意味).候補キーとも呼ばれる.テーブルの2つ以上のタプルが,いかなる場合でも,同一のキー属性値を持つことはない. 例:学生テーブルでは学籍番号がキーとなり,図書館の本では ISBN コードがキーとなる. 注意点:キーは検索効率に直結するため,適切な選択が重要である.
主キー(primary key):テーブル内の各行を一意に識別するための属性または属性の組み合わせである.リレーションスキーマの複数のキー(候補キー)から,データベース管理者が管理上最も適切と判断し,かつ空値をとることがない一つを選定したものである.テーブル定義時に「primary key」または「PRIMARY KEY」として指定され,キーが1種類しか存在しない場合は,それが自動的に主キーとなる.値の重複やNULL値を許さず,通常は自動的にインデックスが作成される.SQLiteでは,INTEGER型のPRIMARY KEY列に対してAUTOINCREMENTを指定でき,productsテーブルのid列ではPRIMARY KEY autoincrement制約を設定して,レコード挿入時に自動的に一意の値が割り当てられるようになっている.
例:
ここでstudent_idが主キーとなり,各学生を一意に識別する.CREATE TABLE students ( student_id INTEGER PRIMARY KEY, name TEXT NOT NULL, department TEXT, email TEXT UNIQUE );
外部キー(foreign key):あるリレーションの属性が,別のリレーションの主キーを参照するように設定されている場合の属性のことである.例えば,リレーションR(…, Ai, …)の属性AiがリレーションS(…, Bj, …)の主キーBjを参照する場合,Aiは外部キーとなる.この参照は,AiがBjの値と一致するか空値である必要があり,テーブル間の関連付けを可能にする.データの参照整合性を維持する役割を持つ.
例:
ここでstudent_idとcourse_idが外部キーとなり,それぞれstudentsテーブルとcoursesテーブルを参照している.CREATE TABLE enrollments ( id INTEGER PRIMARY KEY, student_id INTEGER, course_id INTEGER, grade TEXT, FOREIGN KEY (student_id) REFERENCES students(student_id), FOREIGN KEY (course_id) REFERENCES courses(course_id) );
UNIQUE制約:指定した列または列の組み合わせが,テーブル内で重複しないことを保証する制約である.productsテーブルのproduct_name列にUNIQUE制約を設定し,製品名の重複を防いでいる.PRIMARY KEYとは異なり,NULL値を許可する点が特徴的であり,データの一意性を確保する役割を持つ.
自動インクリメント(autoincrement):主キーとして使用される整数値を自動的に増加させる機能である.テーブル定義時に「autoincrement」として指定すると,新しい行が挿入されるたびに,指定された列の値が自動的に増加する.SQLiteでは INTEGER PRIMARY KEY列は自動的に増加するが,「id integer primary key autoincrement NULL」のようにAUTOINCREMENTキーワードを追加すると,削除された値が再利用されないよう動作が変更される.新規レコード追加時にidが自動的に1ずつ増加し,レコードを一意に識別する.
3.4 関数従属性と正規化
正規化(normalization):データの冗長性を減らし,データの整合性を向上させるための手法である.情報無損失の原則があり,正規化後のテーブル群から元のテーブルを復元可能である.
例:注文テーブルが「注文ID, 顧客ID, 顧客名, 商品ID, 商品名, 価格, 数量」のような構造の場合,顧客名や商品名,価格などが重複して格納される.これを「注文(注文ID, 顧客ID, 商品ID, 数量)」「顧客(顧客ID, 顧客名)」「商品(商品ID, 商品名, 価格)」という3つのテーブルに分割することで正規化できる.
関数従属性:リレーションスキーマの属性間の依存関係を表すもの.社員テーブルにおいて社員番号→氏名,部署のように,ある属性集合の値が決まれば,別の属性集合の値が一意に決まる関係を示す.これはリレーションスキーマの任意のインスタンスで満たされる必要がある.
更新時異状:データベースの更新時に発生する問題のこと.修正時異状,挿入時異状,削除時異状の3種類があり,正規化によって多くの更新時異状を解消できる.適切なデータベース設計によってこれらの問題を防ぐことができる.
修正時異状:リレーションのタプルの属性値の修正において発生する問題.教授の所属学部が変更された場合に,その教授の全ての講義に関するタプルを更新する必要があるなど,実世界の変化を反映させるために複数のタプルを同時に更新しなければならない状況で発生する.
挿入時異状:リレーションへのタプルの挿入において発生する問題.学生が履修科目を持たない場合に学生と科目の関係を表すテーブルに学生情報を登録できないなど,非空制約やキー制約がある属性の属性値が空値であるようなタプルは挿入できないことがある.
削除時異状:リレーションからのタプルの削除において発生する問題.ある科目の最後の履修者が履修を取りやめた場合にその科目自体の情報も失われるなど,実世界の変化を反映させるためにタプルを削除すると,他の有用な情報も同時に失われてしまう可能性がある.
ボイス・コッド正規形:リレーションスキーマの正規形の一つ.リレーションスキーマが持つ任意の関数従属性X→Yについて,Xがそのスキーマのキーになっていることを要求する.情報無損失分解によりボイス・コッド正規形にすることで更新時異状が解消されるが,分解前の関数従属性を維持できないこともある.
テーブルの分解:あるテーブルを属性集合の部分集合による射影で置き換えるプロセス.scoresテーブルをA(name, teacher_name)とB(id, name, student_name, score)に分解するように,元の属性集合の全てを含むように複数の部分集合に分割する.
情報無損失分解:分解されたテーブルから元のテーブルが復元可能な分解のこと.A(name, teacher_name)とB(id, name, student_name, score)から元のscoresテーブルが復元可能な場合などが該当する.あるリレーションがその分解成分の自然結合をとると元の形に復元できるときの分解を指す.
結合と分解:リレーショナルデータベースにおいて,複数のテーブルを結合したり,1つのテーブルを複数のテーブルに分解したりする操作.JOIN操作やビューを使用して実現し,データの正規化や検索効率に関わる.
3.5 制約と空値
一貫性制約:データベース内のデータが常に正確で矛盾なく保たれるための条件である.リレーショナルデータモデルでは,主キー制約(PRIMARY KEY),外部キー制約(REFERENCES),一意制約(UNIQUE),非空制約(NOT NULL),ドメイン制約,チェック制約(CHECK,「score >= 0 AND score <= 100」などの条件式で指定)などがある.例として「月の値は1から12の範囲内」「氏名欄の必須入力」「誕生年に3009などの実現不可能な値を禁止」などの条件を設定できる.これらにより,データの整合性を保証し,無効なデータの挿入や更新を防止する.一貫性制約を満たしていても,生年月日の年の誤入力などの人為的ミスは防げない点に注意が必要である.
例:
この例では,以下の制約がある:CREATE TABLE products ( id INTEGER PRIMARY KEY, product_name TEXT UNIQUE NOT NULL, price NUMERIC CHECK (price > 0), stock INTEGER DEFAULT 0, category_id INTEGER REFERENCES categories(id) );
- idは主キー制約(重複不可,NULL不可)
- product_nameは一意制約と非空制約(重複不可,NULL不可)
- priceはチェック制約(0より大きい値のみ許可)
- category_idは外部キー制約(categoriesテーブルのid列を参照)
空値(NULL):値が存在しない,未定,値が未知などの状態を表すための特別な値である.例えば,自由席の「予約座席番号」,担当者が未定の授業,あるいは存在するが未把握の住所など,様々な意味で使用される.SQLiteにおいて空値を表し,nameカラムに「not null」制約を設けるなど,特定のカラムにNULLを許容しないよう指定できる.プログラム上では未定義の状態を表現するために使用される重要な概念である.データベースの設計において,空値の扱いは慎重に検討する必要がある.
4. データベース管理システム
データベース管理システム:データベースを効率的に管理し,安全な利用環境を提供する統合ソフトウェアシステムである.データベース定義機能,データベース操作機能,問い合わせ最適化機能,大量データへの効率的アクセス機能,一貫性維持機能,アクセス権限と機密保護機能などを実装している.PostgreSQL,MySQL,SQLite3などが該当し,それぞれのシステムによってサポートするデータ型や機能が異なり,効率的なデータ処理と整合性の確保を主な目的とする重要なソフトウェア基盤である.
Microsoft Access:リレーショナルデータベースを作成・管理するためのソフトウェアであり,GUIベースの様々なツールを備え,ビジュアルで親しみやすいインターフェースを提供している.
Accessのビュー:Microsoft Accessにおける画面表示の形式で,データシートビュー,デザインビュー,SQLビューの3種類がある.用途に応じて使い分けることでデータ管理が効率化される.
組み込み型データベース管理システム:アプリケーションプログラムに直接統合され,独立プロセスとしては動作しないシステムである.同時アクセス制御や権限管理機能が簡略化されている代わりに,軽量で効率的な動作を特徴とする.
トランザクション(transaction):データベース操作の論理的な単位であり,複数のデータベース操作をまとめて一つの処理単位として扱う機能である.「begin transaction;」で開始し,「commit;」で確定または「rollback;」で取り消すことができる.ACID(原子性,一貫性,独立性,永続性)特性を持ち,すべての操作が成功するか,すべて失敗するかのいずれかになる.アプリケーションプログラムの異常終了時でもデータベースの一貫性を維持する保護機能,複数ユーザによる同時アクセス環境下でのデータ整合性保証,データの不意の消失を防止する永続性保証機能を含む.データベースの変更が永続的に反映されるか,トランザクション開始前の状態に戻るかのいずれかとなり,データの一貫性を保つために重要なメカニズムである.
例:銀行の振込操作では,「出金アカウントからの引き落とし」と「入金アカウントへの入金」が1つのトランザクションとして扱われる.
操作のどちらかが失敗した場合,ROLLBACKが実行され,どちらの口座残高も変更前の状態に戻る.これにより,お金が消失したり,二重に処理されたりする問題を防ぐ.BEGIN TRANSACTION; -- 山田さんの口座から1000円引き落とす UPDATE accounts SET balance = balance - 1000 WHERE account_id = '1001'; -- 鈴木さんの口座に1000円入金する UPDATE accounts SET balance = balance + 1000 WHERE account_id = '2001'; COMMIT;
ACID特性:トランザクションの信頼性を保証する4つの特性.
- 原子性(Atomicity):トランザクションに含まれる操作は,すべて実行されるか,まったく実行されないかのいずれかであることを保証する特性.例えば銀行振込では,出金と入金が両方成功するか,両方失敗するかのどちらかとなる.
- 一貫性(Consistency):トランザクションの実行前後でデータベースの整合性が保たれることを保証する特性.制約条件を満たさない状態にならないよう保護する.
- 独立性(Isolation):複数のトランザクションが同時に実行される場合でも,各トランザクションは他のトランザクションの影響を受けずに実行されるように見える特性.
- 永続性(Durability):成功したトランザクションの結果は,システム障害が発生しても永続的に保存されることを保証する特性.コミット後のデータは消失しない.
BEGIN TRANSACTION:トランザクションの開始を宣言するbegin transaction;という文である.これ以降の操作はCOMMITかROLLBACKまで一つの処理単位として扱われる.
COMMIT:commit;という文で,トランザクション内のすべての操作を確定させる.これによりデータベースの変更が永続的に反映される.
ROLLBACK:ROLLBACK;という文で,トランザクション内のすべての操作を取り消す.データベースはトランザクション開始前の状態に戻る.
ジャーナルファイル:トランザクション中の変更を一時的に記録するファイルである.mydbデータベースの場合は「mydb-journal」という名前で,システム障害時の回復やROLLBACKの際に使用される.
5. SQL言語
SQL(Structured Query Language):リレーショナルデータベースを操作するための標準的な言語である.平易な英文として読み下すことができるように設計されており,リレーショナル代数よりも理解しやすい形式を採用している.CREATE TABLE,INSERT,SELECT,UPDATE,DELETEなどの文を用いて,データの定義,挿入,検索,更新,削除を行い,テーブル作成やデータ操作に使用される.データ操作だけでなく,データベーススキーマの定義やトランザクション管理などの機能も提供する.「SELECT * FROM E WHERE score > 80;」のようなクエリと呼ばれる命令文の形式で記述し,テーブルを扱い,同一値の行の重複も許可する点にも注意が必要である. 例:「SELECT name, score FROM students WHERE score > 80 ORDER BY score DESC;」は成績が80点を超える学生を点数の高い順に表示する. 注意点:SQL文は大文字小文字を区別しないが,テーブル名やカラム名は区別する場合がある.
5.1 テーブル定義とデータ型
テーブル定義:データベース内のテーブル構造を規定する操作である.テーブル名,各列の名前,データ型,制約条件などを指定し,SQLではCREATE TABLE文を使用して行う.「create table products (...)」や「create table path (id integer primary key autoincrement NULL, ...)」のように記述し,PRIMARY KEY(主キー),REFERENCES(外部キー参照),UNIQUE(一意性制約)などの一貫性制約も同時に設定できる.テーブル構造の基礎を定義し,データベース設計の最初のステップとなる重要な操作であり,データの格納方法や関係性を決定する基礎となる.
データ型(data type):SQLで扱うデータの種類を定義するものである.SQLiteでは,NULL(空値),integer(符号付き整数,8バイト整数),real(浮動小数点値,8バイトの浮動小数点数),text/char(文字列,可変長,最大長をchar(n)のように指定可能,SQLiteでは内部的にUTF-8エンコードで保存),datetime(日付や時刻,内部的にはtext型),BLOB(バイナリデータ,画像やオーディオファイルなど,入力データがそのままの形で格納される)などがある.productsテーブルでは,idはINTEGER型,product_nameはTEXT型などを使用し,適切なデータ型を選択することでデータの整合性が保たれる.SQLiteは「動的型付け」を採用しており,他のSQLデータベースよりも柔軟にデータを格納できる特徴がある.
CREATE TABLE文:新しいテーブルを作成するためのSQL文である.「create table products (...)」のように記述し,テーブル名,列定義,各列のデータ型,制約条件などを指定する.テーブル構造の基礎を定義し,データベース設計の最初のステップとなる重要な操作である.
5.2 データ操作とクエリ
SELECT文:データベースからデータを取得するための基本的なSQL文である.「SELECT * FROM products WHERE id = 123;」のように記述し,取得したい列を指定して条件に合致するデータを抽出することができる.「SELECT A1, A2, ..., An」のように複数の列を指定する場合はカンマで区切る.「*」を使用すると全ての列を取得でき,「テーブル名.」で特定テーブルの全列を指定できる.WHERE句やORDER BY句と組み合わせて使用されることが多い基本的なクエリ構文である.
例:
-- 全学生の情報を取得 SELECT * FROM students; -- 工学部に所属する学生の氏名と学年を取得 SELECT name, grade FROM students WHERE department = '工学部'; -- 成績が80点以上の学生を成績の高い順に取得 SELECT name, score FROM grades WHERE score >= 80 ORDER BY score DESC;
FROM句:SQL問い合わせにおいて,データを取得するテーブルを指定する部分である.「FROM T1, T2, ..., Tm」のように複数のテーブルを指定する場合はカンマで区切る.テーブル参照リスト内で「社員 X, 社員 Y」のようにタプル変数を定義することも可能で,テーブルの別名として使用できる.
WHERE句:SQL問い合わせにおいて,抽出条件を指定する部分である.「WHERE id = 123」や「WHERE X.部長 = Y.社員番号 AND X.給与 > Y.給与」のように,比較演算,論理演算,各種述語(BETWEEN,IN,LIKE,NULL,EXISTなど)を使用して条件を表現する.複数の条件を論理演算子ANDやORで組み合わせることもでき,データ検索の際のフィルタリングに不可欠な要素である.
INSERT文:SQLでデータベースにデータを挿入するための文である.insert into E values('Database', 80, 'KK', datetime('now', 'localtime'), NULL)のようにVALUES句で直接値を指定する方法とSELECT文の結果を挿入する方法がある.テーブルに新しいデータ行(レコード)を追加する操作を行う.
例:
-- 学生テーブルに新しい学生を追加(全列指定) INSERT INTO students VALUES (1005, '田中太郎', '情報学部', 2, 'tanaka@example.com'); -- 列名を明示的に指定して学生を追加 INSERT INTO students (student_id, name, department) VALUES (1006, '佐藤花子', '経営学部'); -- 別のテーブルから選択したデータを挿入 INSERT INTO graduated_students SELECT * FROM students WHERE grade = 4;
DELETE文:SQLでデータベースから条件に合致する行を削除するための文である.DELETE FROM E WHERE name = 'Database' AND student_name ='AA'のようにWHERE句で削除条件を指定する.
例:
-- 特定の学生IDのレコードを削除 DELETE FROM students WHERE student_id = 1001; -- 特定の条件に合致する複数レコードを削除 DELETE FROM grades WHERE score < 60 AND term = '前期';
UPDATE文:SQLでデータベース内の既存データを更新するための文である.UPDATE E SET score=90, updated_at=datetime('now', 'localtime') WHERE name = 'Database' AND student_name ='KK'のようにSET句で更新内容を,WHERE句で更新対象を指定する.
例:
-- 特定の学生のメールアドレスを更新 UPDATE students SET email = 'new.email@example.com' WHERE student_id = 1003; -- 複数の列を同時に更新 UPDATE products SET price = price * 1.1, last_updated = CURRENT_TIMESTAMP WHERE category = 'electronics';
DISTINCT指定:SQLにおいて問い合わせ結果から重複行を除去するための指定.SELECT DISTINCT name, teacher_name FROM scoresのように,SELECTと選択リスト内の間に「DISTINCT」と記述することで,結果に重複行があるとき1つを残して他を除去する.
ORDER BY句:クエリ結果をソートするためのSQL句である.「ORDER BY product_name」でproduct_nameの昇順に,「ORDER BY product_name DESC」で降順に並べ替えを行う.指定した列の値に基づいて昇順(ASC,デフォルト)または降順(DESC)にソートでき,複数の列を指定することで,複合的なソート条件を適用することも可能である.
COUNT関数:SQL集計関数の一つで,指定した条件に合致する行数を計算する.「COUNT(*)」で条件に合致する全行数を,「COUNT(substr(product_name, 1, 1))」で先頭文字ごとの行数をカウントできる.単独で使用するか,GROUP BY句と組み合わせて各グループの行数を求めることができ,データ分析や統計情報の取得に頻繁に用いられる関数である.
SUM関数:SQL集計関数の一つで,指定した列の値の合計を計算する.「SUM(price)」で商品価格の合計を求めるなど,数値データの集計に使用される.
AVG関数:SQL集計関数の一つで,指定した列の値の平均を計算する.「AVG(score)」でテストの平均点を求めるなど,数値データの平均値算出に使用される.
MAX関数:SQL集計関数の一つで,指定した列の最大値を返す.「MAX(price)」で最高価格を,「MAX(date)」で最新の日付を求めるなど,様々なデータ型で使用できる.
MIN関数:SQL集計関数の一つで,指定した列の最小値を返す.「MIN(price)」で最低価格を,「MIN(date)」で最も古い日付を求めるなど,様々なデータ型で使用できる.
GROUP BY句:指定した列の値でグループ化を行い,各グループに対して集計関数を適用するSQL句である.「group by substr(product_name, 1, 1)」のように記述し,product_nameの先頭文字でグループ化して各グループの行数をカウントできる.複数の列を指定することで多次元のグループ化も可能であり,データの集計や分析に重要な役割を果たす.
例:
-- 学部ごとの学生数を集計 SELECT department, COUNT(*) as student_count FROM students GROUP BY department; -- 科目ごとの平均点と最高点を算出 SELECT course_name, AVG(score) as average, MAX(score) as highest FROM grades GROUP BY course_name;
HAVING句:GROUP BY句によってグループ化された結果に対して条件を適用するためのSQL句である.「HAVING COUNT(substr(product_name, 1, 1)) > 24」のように記述し,先頭文字ごとにグループ化した結果のうち,行数が24を超えるグループのみを抽出できる.WHERE句がグループ化前の行に対して条件を指定するのに対し,HAVING句はグループ化後の集計結果に対して条件を指定する点が異なる.
比較演算子:SQLにおける2項述語として機能する演算子である.「<」(より小さい),「<=」(以下),「=」(等しい),「>=」(以上),「>」(より大きい),「<>」(等しくない)の6種類がある.これらは「price > 25」のような条件式で使用され,データの比較を行う.
論理演算子:複数の条件を組み合わせるための演算子である.AND(論理積),OR(論理和),NOT(論理否定)がある.また,NULL値を含む行を抽出するためのIS NULLや,文字列パターンマッチングのためのLIKE(「%」や「_」のワイルドカードを使用)なども条件式で使用される.
LIKE演算子(パターンマッチ):文字列のパターンマッチングを行うための演算子である.「WHERE type LIKE '%AA%'」のように記述し,typeの値に「aa」や「AA」などを含む行を検索できる.ワイルドカード文字「%」(任意の0文字以上の文字列)と「_」(任意の1文字)を使用して柔軟な文字列検索を実現し,大文字小文字を区別せずにマッチングを行う特徴がある.「LIKE 'B%'」は先頭が「B」または「b」の文字列,「LIKE '%C'」は末尾が「C」または「c」の文字列にマッチするなど,様々な位置のパターン検索に利用できる.
例:
-- 「田中」で始まる名前を検索 SELECT * FROM students WHERE name LIKE '田中%'; -- メールアドレスが「gmail.com」で終わるレコードを検索 SELECT * FROM contacts WHERE email LIKE '%@gmail.com'; -- 名前に「太」を含む学生を検索 SELECT * FROM students WHERE name LIKE '%太%'; -- 3文字目が「子」である製品名を検索 SELECT * FROM products WHERE product_name LIKE '__子%';
文字列定数:SQLにおいて,文字列はシングルクオーテーションマーク「'」で囲むことが規定されている.日本語などの多バイト文字を含む場合,NATIONAL CHARACTER型(NCHAR型とも表記)として定義し,比較時には「専攻 = N'情報知能工学'」のように定数の前にプレフィックス文字「N」を付加する.
入れ子型質問:SQL問い合わせの中に別のSQL問い合わせ(副問い合わせ)を含む形式である.「属性名 IN <副問い合わせ>」または「値 IN <副問い合わせ>」の形で使用する.結果集合(x1, x2, ..., xn)に対して「x IN (x1, x2, ..., xn)」は「x = x1 OR x = x2 OR ... OR x = xn」と同値になる.
例:
-- 情報学部に所属する教員が担当する科目を取得 SELECT * FROM courses WHERE instructor_id IN ( SELECT id FROM instructors WHERE department = '情報学部' ); -- 平均点より高い点数を取った学生を取得 SELECT student_name, score FROM grades WHERE score > (SELECT AVG(score) FROM grades);
5.3 関数と特殊操作
now関数:SQLite 3で現在の日時を取得するための関数である.
datetime関数:SQLite 3で日時データを「YYYY-MM-DD HH:MM:SS」形式の文字列に変換するdatetime('now', 'localtime')のような関数である.
5.4 リレーショナル代数
リレーショナル代数:集合論に基づくデータベース操作の理論体系である.集合演算(和集合,差集合,共通集合,直積集合)とリレーショナル代数固有の演算(射影,選択,結合,商)で構成される.これらの演算は必ずしも独立ではなく,例えば結合演算は直積集合演算と選択演算の組み合わせで実現できる.
直積集合演算:2つのリレーション(テーブル)のすべての行の組み合わせを生成する演算である.R(A1, A2, …, An)とS(B1, B2, …, Bm)の直積集合演算「R×S」は,RとSのすべてのタプルの組み合わせからなる新しいリレーションを生成する.SQLでは「FROM R, S」の形式で記述する.
θ-結合演算:2つのリレーションの直積集合から,指定された条件を満たす要素のみを選択する演算である.「R[AiθBj]S」と表記し,RのAi属性とSのBj属性に対して比較演算子θが成り立つ組み合わせを選択する.SQLでは「SELECT * FROM R, S WHERE R.AiθS.Bj」の形式で実現できる.
商演算:2つのリレーションR(A1, A2, …, An-m, B1, B2, …, Bm)とS(B1, B2, …, Bm)の関係を表す演算である.「R÷S」と表記し,「R÷S = { t | t ∈R[A1, A2, …, An-m] ∧ (∀u∈S) ((t, u) ∈R )}」と定義される.複雑な「すべて」の条件を表現するために使用される演算である.
射影:テーブルから特定の列(属性)だけを選択する操作.R[A, B]のように表記され,リレーションRから属性AとBのみを選択する.結果として得られるテーブルは選択された属性のみを含み,重複行がある場合は1つだけが残される.
タプルリレーショナル論理:一階述語論理に基づいてリレーションを宣言的に記述する形式である.「R(u)」(リレーション),「u[Ai]θv[Bj]」(属性値比較),「u[Ai]θc」(値比較)などのアトムと式を組み合わせる.全称記号(∀)や存在記号(∃)による変数定義(例:「(∃u)Φ(u)」)も可能である.
結合属性:2つのリレーションの共通属性のこと.学生(学生ID, 名前, 学科ID)と学科(学科ID, 学科名)の結合属性は「学科ID」となる.2つのリレーションにおいて,共通する属性集合が結合属性となり,各属性について元のリレーションにおけるドメインが等しい必要がある.
自然結合演算:2つのリレーションを結合属性の値が等しいタプルどうしで結合する演算.結合演算と射影演算を使って表現でき,結果として得られるリレーションは両リレーションの全ての属性を含むが,結合属性は重複せず1つとして表現される.
テーブル結合(table join):複数のテーブルを特定の条件に基づいて一つにまとめる操作で,SQLのINNER JOINとON句を使用して実行される.商品テーブルと購入テーブルの結合などが例として挙げられる.
例:
-- 内部結合(INNER JOIN)でstudentsとgradesテーブルを結合 SELECT students.name, grades.course_name, grades.score FROM students INNER JOIN grades ON students.student_id = grades.student_id; -- 左外部結合(LEFT JOIN)ですべての学生と履修科目(履修していない学生も含む)を取得 SELECT students.name, enrollments.course_id FROM students LEFT JOIN enrollments ON students.student_id = enrollments.student_id;
6. データベースの物理的実装とパフォーマンス
6.1 データベースファイルと物理構造
データベースファイル:データベースの内容が物理的に保存されるファイルである.SQLiteでは単一のファイルにデータベース全体が格納され,/home/ubuntuuser/mydbやC:\SQLite\mydbなどのパスで指定される.特定の物理構造を持ち,テーブルやレコードといったデータベースの要素が格納されている.
データページ:SQLite データベースファイル内のデータを格納する基本単位である.通常は 1024 バイトのサイズを持ち,複数のレコードが格納される.データページ内には未使用部分も存在する.
レコード:データベース内のデータを格納する基本単位である.テーブルの 1 行に相当し,複数のフィールド値で構成される.バイナリエディタで確認すると,path,val,created_at などのフィールド値をバイト列として確認できる.
レコードヘッダ:レコードの先頭に位置する領域で,レコードの長さやキー値などのメタデータが格納されている.例えばレコードの長さが「2E」や「2C」,キー値が「01」,「02」,「03」などの 16 進数で表示される.
キー値:レコードを識別するための値である.id フィールドなど,プライマリキーとして定義されたフィールドの値に対応し,レコードヘッダに「01」,「02」,「03」などの値として格納される.
データベースファイルの物理構造:SQLite データベースファイルの内部構成である.SQLite 3 ではデータベースヘッダがあり,データページのサイズは設定可能だが,この例では 1024 バイト(16進数で 400)で,レコードを単位としたストレージシステムとなっている.
バイナリエディタ:ファイルの内容をバイト単位で表示・編集できるツールである.Ubuntu では GHex,Windows では Bz などが利用でき,データベースファイルの物理構造を 16 進数表示とテキスト表示で確認できる.
テキスト・エンコーディング:データベースで文字データを格納する際の形式である.SQLite3では,UTF-8,big-endian UTF-16,little-endian UTF-16から選択可能である.エンコーディングの設定はデータベース作成時に行い,後から変更する場合はsqlite.exeを使用して「PRAGMA encoding=UTF-16le;」のようなコマンドを実行する必要がある.
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6.2 索引とパフォーマンス
索引:レコードを効率よく検索するためのデータ構造である.レコードデータの更新時には索引の維持(maintenance)が必要となるため,索引を増やしすぎると処理効率が低下する可能性がある.更新操作のたびに索引も更新する必要があるためである.
例:顧客テーブルに1000万件のデータがあり,氏名での検索が頻繁に行われる場合,氏名列にインデックスを作成することで検索速度が大幅に向上する.インデックスがない場合は全テーブルスキャンが必要で数秒かかるが,インデックスがあれば数ミリ秒で結果が得られる.
主索引:主キーの値とレコードとを直接結びつけるような索引構造である.各テーブルに1つだけ存在し,テーブル定義時に「primary key」と指定した属性が主キーになる.point3テーブルではid属性に対する主索引が自動的に作成される仕組みである.
二次索引:主索引のキー以外の属性による索引構造である.1つのテーブルに対して任意の数を作成でき,自由に追加・削除が可能である.クエリの検索性能を向上させるための補助的なデータ構造で,検索処理の効率化に役立つ.「CREATE INDEX idx1 ON point3(x)」というSQL文でx属性に対する二次索引を作成できる.二次索引がないとテーブルの全ての行を「tuple at a time」で処理する必要がある.
索引エントリ:索引内の各項目で,元のテーブルの各行に対応する.キー値と,対応するレコードへの参照(ポインタ)で構成される.二次索引idx1では,x値とそれに対応するレコードへの参照で構成されている.
CREATE INDEX:二次索引を生成するためのSQL文である.「CREATE INDEX <索引名> ON <テーブル名> (<列名の並び>)」の形式で使用し,指定した列に基づいて索引を作成する.「CREATE INDEX idx1 ON point3(x)」はpoint3テーブルのx列に対する二次索引idx1を作成するコマンドである.
例:
-- 学生テーブルの氏名に索引を作成 CREATE INDEX idx_student_name ON students(name); -- 複合索引(複数の列を組み合わせた索引)の作成 CREATE INDEX idx_department_grade ON students(department, grade); -- ユニーク索引(重複を許さない索引)の作成 CREATE UNIQUE INDEX idx_unique_email ON users(email);
DROP INDEX:既存の二次索引を削除するためのSQL文である.「DROP INDEX <索引名>;」の形式で使用し,指定した名前の索引を削除する.「DROP INDEX idx1;」を実行するとidx1という名前の二次索引が削除される.
索引名:二次索引に付けられる識別子.例えば「idx2」は索引名で,DROP INDEX idx2のように,索引の管理(削除など)に使用される.
6.3 実行計画とオペコード
実行計画(SQL問い合わせ計画):データベース管理システムがSQLクエリを実行する際の処理手順を示す計画である.SQLをコンパイルして作成され,データベースの基本的なオペレータの並びで表現される.インデックスの使用方法や結合の順序などを含み,クエリのパフォーマンス最適化に役立つ.SQLite 3ではEXPLAIN文(「EXPLAIN SELECT * FROM point3 WHERE x < 1000000000;」など)で確認でき,索引の有無により実行効率が大きく変わる.「EXPLAIN SELECT * FROM scores;」でscoresテーブルの全行取得計画が命令列として表示される.複雑なクエリの実行効率を向上させるための分析と調整に使用され,大規模データベースでのパフォーマンス向上に不可欠なツールである.
例:
この例では,テーブルスキャン(全レコード走査)が行われているが,nameにインデックスがあると実行計画が大きく変わり効率的になる.-- インデックスなしの検索の実行計画を確認 EXPLAIN SELECT * FROM students WHERE name = '山田太郎'; -- このSQLの実行計画は以下のようなオペコード列で表示される addr opcode p1 p2 p3 p4 p5 comment ---- ------------- ---- ---- ---- ------------- ---- ------------- 0 Init 0 12 0 00 Start at 12 1 OpenRead 0 2 0 3 00 root=2 tbl=students 2 Rewind 0 11 0 00 3 Column 0 1 1 00 r[1]=students.name 4 Ne 1 10 2 collseq(BINARY) name='山田太郎' 5 Rowid 0 3 0 00 r[3]=rowid 6 Column 0 0 4 00 r[4]=students.id 7 Column 0 2 5 00 r[5]=students.department 8 Column 0 3 6 00 r[6]=students.email 9 ResultRow 3 4 0 00 output=r[3..6] 10 Next 0 3 0 01 11 Halt 0 0 0 00 12 Transaction 0 0 1 0 01 13 Goto 0 1 0 00
SQLコンパイル:データベース管理システムがSQL文を解析し,効率的に実行できる形式に変換する処理.問い合わせ計画の生成につながり,SQLiteではSQLite Virtual Machine Opcodesとして表現される.
オペコード:SQLite 3などのデータベース管理システムの内部処理を指示する命令コードである.OpenRead,Rewind,Column,Next,Goto,Rowid,ResultRow,Neなどがあり,SQLの実行時に使用される.http://www.hwaci.com/sw/sqlite/opcode.htmlに詳細な説明があり,SQLiteの仮想マシンが実行する基本命令として機能する.
カーソル:データベーステーブルや索引内の特定の位置を指し示すポインタである.オペコードによって操作され,データベース操作時に現在処理中のレコードや索引エントリの位置を追跡するために使用される.OpenReadオペコードによって初期化され,テーブル内の行を順に処理するために使われる.Rewindオペコードでカーソルをテーブルの先頭に移動させる仕組みである.
OpenRead:SQLiteのオペコードの一つで,指定されたテーブルに対して読み取り用のカーソルを作成する.オペランドP1にはカーソル番号,P2にはルートページ番号が設定される.
Rewind:SQLiteのオペコードの一つで,カーソルをテーブルの先頭行に位置づける.テーブルが空の場合は指定されたアドレスにジャンプする.問い合わせ計画では「Rewind P2 = 13」のように表示される.
Column:SQLiteのオペコードの一つで,カーソルが指し示すレコードの特定の列からデータを取り出し,指定されたレジスタに格納する.列番号は0から始まり,問い合わせ計画では「Column P3 = 1」などと表示される.
Rowid:SQLiteのオペコードの一つで,カーソルが指し示すレコードの主キーの値を,指定されたレジスタに格納する.問い合わせ計画では「Rowid P1 = 1, P2 = 1」のように表示される.
ResultRow:SQLiteのオペコードの一つで,指定された範囲のレジスタの値を1行として出力する.クエリの結果行を生成するために使用され,「ResultRow P1 = 1, P2 = 7」は7つのレジスタ値を出力する.
Next:SQLiteのオペコードの一つで,カーソルをテーブルの次の行に進める.末端に達した場合は次の命令に進み,そうでない場合は指定されたアドレスにジャンプする.「Next P2 = 4」は次行がある場合,アドレス4に戻る.
条件付きジャンプ:オペコードの一種で,特定の条件が満たされた場合にのみ,指定されたアドレスに制御を移す命令である.SQLiteの「Ne」や「Ge」などのオペコードがこれにあたり,条件を評価して条件が満たされる場合に指定されたアドレスにジャンプする.「Ne 1 15 2 collseq(BINARY) 69」はstudent_name='KK'の条件処理に,「Ge P1 = 1, P2 = 17, P3 = 2」はレジスタ1の値がレジスタ2の値以上の場合にアドレス17にジャンプする操作を表している.
レジスタ:SQLite 3のような仮想マシンで使用される一時的なデータ格納領域である.オペコードの実行中に,中間結果や操作対象の値を保持するために使用される.「Integer P1 = 1000000000, P2 = 1」というオペコードはレジスタ1に値1000000000をセットする操作を表している.
ルート・ページ(ルート・ページ番号):テーブルや索引の最上位のページで,データベース管理システムによって決められる値である.テーブルや索引へのアクセスの起点となり,データベース管理システムによって自動的に割り当てられ,sqlite_master テーブルの rootpage フィールドに格納される.資料ではpoint3テーブルのルート・ページ番号は12,二次索引idx1のルート・ページ番号は46と示されている.
7. SQLite特有の概念と操作
SQLite3:軽量で組み込み可能な,サーバレスなリレーショナルデータベース管理システムである.単一のファイル(mydbなど)にデータベース全体を格納し,設定やインストールが簡単で,ファイルベースのデータベース管理が特徴.create table,insert,select などのSQL文を使用してテーブル定義,データ挿入,問い合わせなどの操作が可能である.SQL問い合わせ計画の表示や,仮想マシンのオペコードの実行などの機能を持ち,Windows環境やUbuntu環境で利用でき,データ型としてNULL,integer,real,char,text,datetime,boolなどをサポートしている.モバイルアプリケーションや小規模なウェブアプリケーションで広く使用されている.
例:
-- SQLite3データベースファイルの作成 sqlite3 mydatabase.db -- テーブル作成 CREATE TABLE users ( id INTEGER PRIMARY KEY, name TEXT NOT NULL, email TEXT UNIQUE, created_at DATETIME DEFAULT CURRENT_TIMESTAMP ); -- データ挿入 INSERT INTO users (name, email) VALUES ('山田太郎', 'yamada@example.com'); -- データ取得 SELECT * FROM users; -- デスクトップアプリへの組み込み例(Python) import sqlite3 conn = sqlite3.connect('mydatabase.db') cursor = conn.cursor() cursor.execute('SELECT * FROM users') for row in cursor.fetchall(): print(row)
Sqliteman:SQLite データベースを管理するためのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)ツールである.「File」→「Open」メニューからデータベースファイルを開くことができ,データベースファイルの作成や既存データベースの開閉,「Run SQL」ボタンでSQLクエリの実行,テーブルの内容確認,データの閲覧や編集などの操作を視覚的に行うことができる.Ubuntu, Windowsなど複数のプラットフォームで利用可能である.
オブジェクト・ブラウザ:Sqlitemanなどのデータベース管理ツールで提供される,データベース内のオブジェクトを階層的に表示する機能である.「Tables」を展開するとテーブル一覧が表示され,テーブルやビューなどを選択できる.
システムカタログ:データベース管理システムが内部で管理しているシステムテーブルの集合である.SQLiteman で「System Catalogue」を展開することで閲覧可能で,データベースの構造を確認できる.
sqlite_master:SQLite3のシステムテーブルで,TEMPORARY テーブル以外のデータベーススキーマが格納されている.「SELECT * FROM sqlite_master;」でテーブル一覧を取得できるが,DROP TABLE,UPDATE,INSERT,DELETE操作などの直接の更新操作は許可されていない特殊なシステムテーブルである.
例:
-- sqlite_masterテーブルからデータベース内のすべてのテーブル情報を取得 SELECT name, type, sql FROM sqlite_master WHERE type='table'; -- 特定のテーブルに関する情報を確認 SELECT * FROM sqlite_master WHERE tbl_name='users'; -- インデックス情報を取得 SELECT name, tbl_name FROM sqlite_master WHERE type='index';
一括実行:複数のSQL文を連続して実行する機能である.「Run multiple SQL statements...」ボタンでトランザクション内の複数操作を一度に実行する際に使用される.
文法エラー:SQLの構文が正しくない場合に発生するエラーである.HOGEHOGEのような未定義の値を使用した場合などで,トランザクション内で発生した場合はエラーの対応方法によってトランザクションの続行可否が決まる.
埋め込みSQL:プログラミング言語の中にSQL文を組み込んで使用する技術.C,Java,Pythonなどの言語からアプリケーションでデータベースを操作する際に用いられる.文字列としてSQL命令を定義し,データベース接続オブジェクトのメソッドを通じて実行するプログラミング手法である.
例:Pythonでの埋め込みSQL
import sqlite3 # データベース接続 conn = sqlite3.connect('school.db') cursor = conn.cursor() # 埋め込みSQLの実行 student_id = 1001 cursor.execute(''' SELECT s.name, c.course_name, g.score FROM students s JOIN grades g ON s.student_id = g.student_id JOIN courses c ON g.course_id = c.course_id WHERE s.student_id = ? ''', (student_id,)) # 結果の取得と処理 for name, course, score in cursor.fetchall(): print(f"学生名: {name}, 科目: {course}, 成績: {score}") # 接続を閉じる conn.close()
8. データベースの応用
データウェアハウス(data warehouse):過去のデータを蓄積・分析するためのシステムで,履歴データを重視する.時間の経過に伴うデータの変化を記録し,日時情報を付加して管理する.
例:小売企業では,日々の販売データ,在庫データ,顧客データなどが店舗システムから定期的にデータウェアハウスに集約される.このデータを基に,季節ごとの売上傾向分析,商品カテゴリ別の需要予測,顧客セグメント分析などを行い,経営戦略やマーケティング施策に活用する.