Rによる統計分析ガイド(Windows対応版)
【概要】
Rでは、記述統計量の計算、クロス集計、各種検定、グラフ描画を行える。R標準のパッケージ(base/stats/grDevices)による基本処理から、momentsパッケージによる分布解析まで対応する。データはデータフレーム(行と列からなる2次元の表)を基盤として扱う。本ガイドのコードはWindows上のRで動作することを前提とする。
【本資料の前提と準備】
本資料はWindowsパソコンにインストールしたRで動作することを前提とする。利用前に次を準備する。
- R本体のインストール:CRAN(Rの公式配布サイト)からWindows版のRをインストールする。本資料の処理はCPUのみで動作する。
- パッケージの導入:歪度・尖度の計算でmomentsパッケージを使用する。初回のみ
install.packages("moments")を実行する。それ以外の処理はR標準の関数で動作する。 - 日本語の表示:グラフの日本語ラベルが文字化けしないよう、
windowsFonts()でWindows標準の日本語フォントを登録して使用する(「グラフによる可視化」の節を参照)。
統計的検定は次の流れで進める。本資料の各節はこの流れのいずれかの段階に対応する。
① データの確認・記述統計 → ② 正規性の確認 → ③ 手法の選択(正規性あり=パラメトリック/なし=ノンパラメトリック)→ ④ 検定の実行 → ⑤ 結果(p値)の解釈
【目次】
記述統計量の概要
記述統計量は、データの特徴を数値で要約する指標である。データ全体の特性を把握し、分析手法の選択に用いる。上記の流れの①に対応する。
主な記述統計量には、平均値、標準偏差、中央値、四分位数、最大値、最小値、分散、歪度、尖度がある。各語の定義は「用語説明」を参照する。
SPSS・Python・Rの処理対応表
次の表は、SPSS、Python、Rにおける主要な統計処理の対応を示す。
| 処理内容 | SPSS | Python (pandas/scipy) | R |
|---|---|---|---|
| 記述統計量 | FREQUENCIES |
df.describe()、stats.skew()、stats.kurtosis() |
summary、sd、skewness、kurtosis |
| 頻度表 | FREQUENCIES |
value_counts() |
table |
| クロス集計表 | CROSSTABS |
pd.crosstab() |
table |
| 集約 | AGGREGATE |
groupby().agg() |
aggregate |
| Welchのt検定 | T-TEST |
stats.ttest_ind(equal_var=False) |
t.test |
| 一元配置分散分析 | ONEWAY |
stats.f_oneway() |
oneway.test |
| Mann-Whitneyの検定 | NPAR TESTS /M-W= |
stats.mannwhitneyu() |
wilcox.test |
| Kruskal-Wallis検定 | NPAR TESTS /K-W= |
stats.kruskal() |
kruskal.test |
Rによる分析の実装例
次のデータセットを使用する。
| 科目 | 受講者 | 得点 |
|---|---|---|
| 国語 | A | 90 |
| 国語 | B | 80 |
| 算数 | A | 95 |
| 算数 | B | 90 |
| 理科 | A | 80 |
データフレームの作成
ベクトルでデータを定義し、data.frame関数でデータフレームに変換する。
# データの作成
科目 <- c('国語', '国語', '算数', '算数', '理科')
受講者 <- c('A', 'B', 'A', 'B', 'A')
得点 <- c(90, 80, 95, 90, 80)
# データフレームの作成
df <- data.frame(科目 = 科目, 受講者 = 受講者, 得点 = 得点)
print(df)
個別の統計量の計算
R標準の関数で、基本統計量を個別に算出する。必要な統計量だけを選んで計算できる。
scores <- df$得点
print(paste("平均値:", mean(scores)))
print(paste("標準偏差:", sd(scores)))
print(paste("中央値:", median(scores)))
print(paste("最大値:", max(scores)))
print(paste("最小値:", min(scores)))
print(paste("第1四分位数:", quantile(scores, 0.25)))
print(paste("第3四分位数:", quantile(scores, 0.75)))
summary関数とカテゴリ別集計
summary関数は複数の統計量を一括で算出する。カテゴリ別の代表値を求める場合はaggregate関数に単一の関数(平均など)を指定すると、結果がデータフレームになり扱いやすい。複数の統計量をカテゴリ別に見る場合はtapply関数を使う。
# 全体の統計量
print(summary(df$得点))
# 科目別の平均得点(結果がデータフレームになる)
print(aggregate(得点 ~ 科目, data = df, FUN = mean))
# 科目別に複数の統計量を見る場合
print(tapply(df$得点, df$科目, summary))
グラフによる可視化
R標準のグラフィック機能でデータの分布を可視化する。箱ひげ図は分布の概要を、ヒストグラムは頻度分布を示す。png関数で画像ファイルへの出力を開始し、dev.off関数で出力を終了する。
Windowsで日本語ラベルが文字化けしないようにするには、windowsFonts関数でWindows標準の日本語フォント(例:MS Gothic)を登録し、グラフ描画時にfamily引数で指定する。
# Windows標準の日本語フォントを登録(名前 JP として登録)
windowsFonts(JP = windowsFont("MS Gothic"))
# 箱ひげ図
png("score_distribution.png", width = 800, height = 600)
boxplot(得点 ~ 科目, data = df,
main = "科目別得点分布", ylab = "得点",
family = "JP")
dev.off()
# ヒストグラム
png("score_histogram.png", width = 800, height = 600)
hist(df$得点, breaks = 5,
main = "得点分布", xlab = "得点", ylab = "頻度",
family = "JP")
dev.off()
歪度と尖度
momentsパッケージで分布の形状を計算する。歪度が0に近いほど左右対称、尖度が3に近いほど正規分布に近い形状を示す。パッケージ未導入の場合はinstall.packages("moments")でインストールする。
尖度の定義はパッケージにより異なる。momentsパッケージのkurtosisは正規分布で値が3になる定義である。一方、e1071パッケージなど「過剰尖度(kurtosis − 3)」を返す実装では正規分布で0になり、値が3だけ小さくなる。どちらの定義かを確認して比較する。
# 初回のみ: install.packages("moments")
library(moments)
# 乱数シードの設定(同じ値を指定すると同じ乱数列を再現できる)
set.seed(42)
# 正規分布に従う乱数を10000個生成
normal_data <- rnorm(10000)
print(paste("歪度:", round(skewness(normal_data), 3)))
print(paste("尖度:", round(kurtosis(normal_data), 3)))
クロス集計表
table関数で2つのカテゴリ変数の関係を集計する。組み合わせごとの度数を表形式で示す。
グループ1 <- c('a', 'b', 'c', 'a', 'b')
グループ2 <- c('d', 'd', 'e', 'e', 'e')
df <- data.frame(グループ1 = グループ1, グループ2 = グループ2)
print(table(df$グループ1, df$グループ2))
検定手法の選択
統計的検定では、データの特性に応じて手法を選択する(流れの③)。まず正規性を確認し、その結果に応じて次のように選ぶ。本資料では各分岐に対応する実装例を用意している。
- 2群の比較:正規性が認められる場合はWelchのt検定(
t.test)、認められない場合はMann-Whitneyの検定(wilcox.test)を使用する。 - 3群以上の比較:正規性が認められる場合は一元配置分散分析(
oneway.test)、認められない場合はKruskal-Wallis検定(kruskal.test)を使用する。
正規性の検定
shapiro.test関数でデータの正規性を検定する(流れの②)。p値が有意水準(通常0.05)より大きい場合、正規性を仮定できる。この結果に基づき、続く節のパラメトリック検定(t検定・分散分析)またはノンパラメトリック検定(Mann-Whitney検定・Kruskal-Wallis検定)を選択する。
使用上の注意:shapiro.testは標本サイズが3〜5000の範囲でのみ実行でき、これを超えるとエラーになる。また大標本では、実用上問題のない小さな逸脱でも正規性なしと判定されやすい。検定結果だけに頼らず、ヒストグラムやQ-Qプロット(理論分布と比べる散布図。qqnorm関数で描画)も併用する。
# 乱数シードの設定(同じ値を指定すると同じ乱数列を再現できる)
set.seed(42)
data <- rnorm(100)
result <- shapiro.test(data)
print(paste("検定統計量:", round(result$statistic, 3)))
print(paste("p値:", round(result$p.value, 3)))
# 解釈: p値が0.05より大きければ正規性を仮定でき、パラメトリック検定を選ぶ。
# 0.05以下なら正規性は仮定できず、ノンパラメトリック検定を選ぶ。
Welchのt検定(2群・正規性あり)
t.test関数で2群間の平均値の差を検定する。Welchのt検定は等分散を仮定しないため、2群の分散が異なる場合に適用できる。t.test関数は既定(var.equal = FALSE)でWelchのt検定を実行する。各群の正規性を確認したうえで適用する。
# 乱数シードの設定(同じ値を指定すると同じ乱数列を再現できる)
set.seed(42)
group1 <- rnorm(100)
group2 <- rnorm(100, 0.5)
test_result <- t.test(group1, group2)
print(paste("t値:", round(test_result$statistic, 3)))
print(paste("p値:", round(test_result$p.value, 3)))
# 解釈: p値が0.05未満なら、2群の平均値に有意差があると判断する(帰無仮説を棄却)。
Mann-Whitneyの検定(2群・正規性なし)
2群の正規性が認められない場合は、wilcox.test関数でMann-Whitneyの検定(2標本のWilcoxon順位和検定)を行う。母集団の分布形状を仮定せず、順位に基づいて2群の差を評価する。各群の正規性を確認したうえで、正規性が認められない場合に適用する。
使用上の注意:標本が50個以上の場合、またはデータにタイ(同順位)がある場合、wilcox.testは正確なp値を計算せず、正規近似に切り替える。タイがある場合は警告メッセージを表示する。結果の解釈は可能だが、警告が出ることを想定しておく。
# 乱数シードの設定(同じ値を指定すると同じ乱数列を再現できる)
set.seed(42)
group1 <- rnorm(100)
group2 <- rnorm(100, 0.5)
test_result <- wilcox.test(group1, group2)
print(paste("W値:", round(test_result$statistic, 3)))
print(paste("p値:", round(test_result$p.value, 3)))
# 解釈: p値が0.05未満なら、2群の中心位置に有意差があると判断する。
一元配置分散分析(3群以上・正規性あり)
oneway.test関数で3群以上の平均値の差を検定する。oneway.test関数は既定(var.equal = FALSE)で等分散を仮定しないWelchの方法を実行する。等分散を仮定する場合はvar.equal = TRUEを指定する。各群の正規性を確認したうえで適用する。有意差が認められた場合、事後検定(どの群間に差があるかを特定する検定。多重比較ともいう)を行う。
group_a <- c(3.42, 3.84, 3.96, 3.76)
group_b <- c(3.17, 3.63, 3.47, 3.44, 3.39)
group_c <- c(3.64, 3.72, 3.91)
# 値とグループ名を1つのデータフレームにまとめる
# factor() はグループ名をカテゴリ変数として扱うための関数
data <- data.frame(
値 = c(group_a, group_b, group_c),
グループ = factor(c(rep("A", 4), rep("B", 5), rep("C", 3)))
)
result <- oneway.test(値 ~ グループ, data = data)
print(paste("F値:", round(result$statistic, 3)))
print(paste("p値:", round(result$p.value, 3)))
# 解釈: p値が0.05未満なら、少なくとも1組の群間に平均値の有意差があると判断する。
# どの群間かは事後検定で特定する。
Kruskal-Wallis検定(3群以上・正規性なし)
3群以上の正規性が認められない場合は、kruskal.test関数でKruskal-Wallis検定を行う。一元配置分散分析のノンパラメトリック版であり、順位に基づいて3群以上の差を評価する。各群の正規性を確認したうえで、正規性が認められない場合に適用する。有意差が認められた場合、ノンパラメトリックの事後検定(例:pairwise.wilcox.test関数)でどの群間に差があるかを調べる。
group_a <- c(3.42, 3.84, 3.96, 3.76)
group_b <- c(3.17, 3.63, 3.47, 3.44, 3.39)
group_c <- c(3.64, 3.72, 3.91)
# 値とグループ名を1つのデータフレームにまとめる
# factor() はグループ名をカテゴリ変数として扱うための関数
data <- data.frame(
値 = c(group_a, group_b, group_c),
グループ = factor(c(rep("A", 4), rep("B", 5), rep("C", 3)))
)
result <- kruskal.test(値 ~ グループ, data = data)
print(paste("カイ二乗値:", round(result$statistic, 3)))
print(paste("p値:", round(result$p.value, 3)))
# 解釈: p値が0.05未満なら、少なくとも1組の群間に分布の有意差があると判断する。
用語説明
- 記述統計量:データの特性を数値で要約したもの。平均値、標準偏差、中央値などを含む。
- 平均値:データの総和をデータ数で割った値。分布の中心傾向を示す。外れ値の影響を受けやすい。
- 標準偏差:データのばらつきを示す指標。平均値からの平均的な距離を示す。
- 中央値:順序付けたデータの中央に位置する値。外れ値の影響を受けにくい。
- 四分位数:データを4等分する境界値。第1四分位数、中央値(第2四分位数)、第3四分位数からなる。
- 最大値:データ内の最も大きい値。
- 最小値:データ内の最も小さい値。
- 分散:各データ点と平均値の差の二乗の平均。標準偏差の二乗である。
- 歪度:分布の非対称性を示す指標。正規分布では0となる。
- 尖度:分布の尖り具合を示す指標。正規分布では3となる(過剰尖度を用いる定義では0となる)。算出式はパッケージにより異なる。
- データフレーム:行と列からなる2次元のデータ構造。Rで主に使用される。
- 外れ値:他のデータから離れた値。分析結果に影響を与える場合がある。
- ヒストグラム:データの分布を表すグラフ。各区間の頻度を棒グラフで示す。
- 箱ひげ図:データの分布を四分位数と外れ値で表すグラフ。中央値、四分位範囲、外れ値を示す。
- Q-Qプロット:データの分位点を理論分布(正規分布など)の分位点と対比して描く散布図。点が直線上に並ぶほど正規分布に近い。Rでは
qqnorm・qqline関数で描画する。 - クロス集計表:2つのカテゴリ変数の関係を表形式で示したもの。組み合わせごとの度数を示す。
- t検定:2群の平均値の差の統計的有意性を評価する検定手法。
- Welchのt検定:等分散を仮定しないt検定。分散が異なる2群の比較に適用する。
- Mann-Whitneyの検定(Wilcoxonの順位和検定):2群の差を順位に基づいて検定するノンパラメトリック手法。正規性を仮定しない。Rの
wilcox.test関数は、2標本ではMann-Whitney検定、1標本・対応ありではWilcoxon符号順位検定として動作する。 - ノンパラメトリック検定:母集団分布の形状を仮定しない検定手法。順位や符号を用いる。
- パラメトリック検定:母集団分布に特定の形状(正規分布など)を仮定する検定手法。
- 一元配置分散分析:3群以上の平均値の差を同時に検定する手法。
- Kruskal-Wallis検定:3群以上の差を順位に基づいて検定するノンパラメトリック手法。一元配置分散分析のノンパラメトリック版である。Rでは
kruskal.test関数で実行する。 - 事後検定:分散分析などで有意差が認められた後、どの群間に差があるかを特定する検定。多重比較ともいう。
- Shapiro-Wilk検定:データの正規性を評価する検定手法。Rでは
shapiro.test関数で実行する。標本サイズは3〜5000に限られる。 - p値:帰無仮説が真の場合に、観測データ以上に極端なデータが得られる確率。有意水準(例:0.05)と比較して判断する。
- 帰無仮説:「差がない」「効果がない」とする仮説。p値が有意水準を下回るとき、この仮説を棄却する。
- 乱数シード:乱数生成の初期値。同じ値を指定すると同じ乱数列を再現できる。
- windowsFonts:Windows環境でグラフに使用するフォントを登録するR標準関数。日本語表示には「MS Gothic」などを指定する。